高出力静電モータ
キーワード：静電気力，静電モータ，静電アクチュエータ，リニアモータ，FPC，フィルムモータ
はじめに
電気によって制御される機器，いわゆるメカトロニクス機器においては，電気エネルギを機械エネルギに変換するためのアクチュエータ（モータ）が必要である．
現在のメカトロニクス機器におけるアクチュエータの主流は，磁場の力により駆動される電磁モータである．
電磁モータは，出力性能，エネルギー変換効率，制御性，汎用性等の様々な面において，他のアクチュエータを上回る性能を有している．
しかし，近年の各種メカトロニクス機器の小型化・高性能化に伴い，アクチュエータに対する要求も，多様化かつ高度化してきており，それに伴い，従来の電磁モータには無い新たな特徴・性能を有するアクチュエータの開発も，強く望まれている．
本研究室では，このような要求に応えるため，静電気力を用いた高出力モータの開発を行っており，数種類の高出力静電モータを開発してきた．
本ページにおいては，それらの中から，パルス駆動誘導電荷形静電モータ[1]，交流駆動両電極形静電モータ[2]の２種の静電モータを紹介する．
静電モータ
静電モータの歴史は意外に古く，１８世紀から１９世紀にかけて，様々な種類の静電モータが考案されている[3]．
しかし，それらのモータは力が小さかった上に，駆動に高電圧が必要であったことから，実用化されることはなかった．
そのため，「静電気力は弱い」ということが，なかば常識となり，近年にいたるまで，静電モータは実用性の低い物とみなされてきた．
しかし，1980年代後半より半導体製造プロセスを用いたマイクロマシンが盛んに試作されるようになると，その駆動源として大きさ0.1mm程度のマイクロ静電モータが注目を集め，様々な形態のマイクロ静電モータが試作されるようになった[4,5]．
静電モータがマイクロモータとして注目を集めたのには，主に以下の２つの理由によると考えられる．
- 平面的な構造により製作可能なため，半導体製造プロセスの適用が容易である．
- 電磁モータにおいては，単位体積あたりの発生力（力密度）が，寸法によらず一定であると見積もられるのに対し，静電モータの場合は，モータ寸法を微細化するほど，力密度が向上すると考えられる．
このうち，２点目は，静電気力と電磁力の寸法効果について述べたものであるが，この寸法効果は，静電モータの性能を考える上で非常に重要な概念となる．
高出力静電モータ
さて，従来，静電モータは弱い力しか出せないものと考えられてきたわけだが，上記２点目のように，微細化により静電モータの力密度が向上するのであれば，微細化した静電モータ要素を多数集積し，結合することで，大出力の静電モータも実現可能であると考えられる．
このような考えに基づき，ここで紹介するモータも含め，いくつかの静電モータが研究・開発されている．
なかでも，本研究室で開発している高出力静電モータでは，FPCフィルム（フレキシブルプリント基板フィルム）を用いることで，効率よく微細静電モータ要素を集積することに成功しており，静電モータとしては極めて大きな推力，出力を実現することに成功している．
ここでは，本研究室で開発した２種の高出力静電モータについて紹介する．
参考文献
[1] S. Egawa, T. Niino, and T. Higuchi : "Film Actuators : Planar Electrostatic Surface-Drive Actuators", Proc. IEEE Micro Electro Mechanical Systems Workshop '91, pp. 9-14 (1991)
[2] T. Niino, S. Egawa, H. Kimura, and T. Higuchi : "Electrostatic Artificial Muscle : Compact, High-Power Linear Actuators with Multiple-Layer Structures", Proc. IEEE Micro Electro Mechanical Systems Workshop '94, pp. 130-135 (1994)
[3] 静電気学会編：「静電気ハンドブック」，オーム社 (1981)
[4] L. S. Fan, Y. C. Tai, and R. S. Muller : "IC-Processed Electrostatic Micro-motors", Proc. IEEE International Electron Devices Meeting, pp. 666-669 (1988)
[5] S. C. Jacobsen, R. H. Price, and J. E. Wood : "The Wobble Motor : An Electrostatic, Planetary-armature, Miroactuator", Proc. IEEE Micro Electro Mechanical Systems Workshop '89, pp. 17-24 (1989)
