バイメタル素子の熱自励振動と熱駆動アクチュエータへの応用

キーワード:バイメタル,自励振動,熱アクチュエータ,温度センサ,高温,低温,特殊環境


  1. はじめに
  2.  今後の科学技術と産業の発展には,特殊環境下での対象物の精密操作が不可欠であり,これを実現するために,超高温,極低温下で使用できるアクチュエータが必要となる.キュリー点以上の温度では,磁性材料や圧電材料の有効な特性がなくなり,最も利用されている電磁モータや圧電アクチュエータがそれらの機能を失うという致命的な問題がある.我々は熱変形を基本に,高温下で使用可能なアクチュエータの開発を具体的な課題として研究を進めている.このため一定熱源で円筒状バイメタルの曲げ変形を推力に変換する原理を考案した.これによると,円筒状バイメタルは,転がり運動を行い,またそれに重りを付けた振り子は自励振動を行う.これらを基本にしたアクチュエータは単純な構成で,過渡的な加熱が不要,比較的大きなサイズでも動作することから,より高温での利用に適していると思われる.ここでは曲げ変形を利用するアクチュエータに関して,その駆動原理とこれまでの実験結果から,高温使用の可能性を検証する.


  3. 熱曲げ変形による推力発生の原理
  4.  考案したアクチュエータの基本構成は非常に単純で,図1のようにバイメタルを熱膨張が大の側が外側になるよう円筒状に巻いたものである.これが,平坦な熱源上に置かれると,任意の一方向へ転がり運動を行い(転がり型),またバイメタルが錘の付いた円板に巻き付けた振動子(バイメタルの両端は円板に接合)は,振り子運動が減衰せずに継続する(振動型).

    図1 バイメタルアクチュエータ(転がり型:左,振動型:右)

     推進力の発生原理は転がり型を基本に図2のように考えられる.バイメタルは温度上昇により内側(低熱膨張側)にわん曲する.円筒を熱源上に置くとその接触,形状が完全な対称ではないことから,熱伝導,温度分布に非対称が存在する.図ように左側がより温度が高い場合,温度上昇に伴うわん曲は左側で大きい.よって円筒のわん曲の和は右回りのトルクになり,これは右方向へ転がり出す.熱源との接触の履歴を考えると円筒が転がる間も,接点後方(左側)の温度が高く,前方(右)は冷やされることで温度が低い部分になる.よって運動中も,わん曲の和は右回りのトルクになる.このようにしてトルクが継続的に発生することで運動が持続する.図2右は,転がり時の温度分布をサーモグラフィーにより測定した結果で,左側の接点から後方に温度が高い部分があることがわかる.この時,右方向への推力を我々は手でも感じた.

    図2 推力の発生原理(左)と円筒のサーモグラフィーによる温度分布(右)


  5. バイメタルによる移動機構,高温用アクチュエータへ向けて
  6.  この原理を用いると,搬送や位置決め機構が容易に構成できる.我々は振動型を基本にステップ状に変位する移動機構を作製した.これは図3のように,振動子が移動体上で,自励振動を行うもので,振動子が移動体壁面に衝突することで変位する.図4は簡単な試作で,直径40mm,幅20mmの円板(材質:真鍮)に,厚さ0.15mmのバイメタル(22Ni-4Cr-Fe合金:高膨張率,36Ni-Fe合金:低膨張率,わん曲係数14.5×10-6/℃)を巻いた振動子が,アルミの移動体上に乗ったものである.図4右はヒータ温度が140℃時の振動子と移動体の変位で,一回の衝突でステップ状10μmの変位が得られている.また衝突後の振動子は,再び熱変形で加振され移動体に衝突,これを繰り返すことで,移動体は継続的に駆動し続ける.

    図3 振動子を用いたステップ移動機構
    図4 振動子を用いたステップ移動機構

     我々は,以上の原理を基本にしたアクチュエータの駆動が高温で実現できる可能性を以下の点で考察している.


発表文献

[1] 原田,末原,上野,樋口,「熱変形を利用したアクチュエータの開発」,2006年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 , pp. 803-804 (2006/3)
[2] 末原,原田,上野,樋口,「熱変形を利用した自走機構の開発」,2006年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 , pp. 805-806 (2006/3)