生体内部情報の可視化による
3次元バイオイメージング手法の開発
キーワード:3次元イメージング,赤外分光分析,薄切片観察法
はじめに
本研究室では,3次元内部構造顕微鏡[1]を用いて,試料の色情報を基に3次元像を構築して,植物,昆虫,小動物,農産物,食品など,多くの生物系物質の観察などを行ってきた.
しかし,3次元内部構造顕微鏡を用いての観察,および薄切片作製装置[2]を用いての観察は基本的に画像観察(色情報,形状情報)であり,試料の成分情報を得ることは不可能であった.
生物系の研究者からは断面および切片からより多くの情報(画像,成分情報など)を得ることが望まれている.
そこで今回,薄切片作製装置とFT/IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を組み合わせて,薄切片より成分情報を得ることが可能なシステムを構築した[3].
本研究により,今までの画像情報以外に,特定物質の分布情報や内部成分情報などを取り込めるようになり,生物系試料の内部状況を立体グラフィック化した状態で観察できるようになる.
食品や農産物に応用した場合,組織構造から安全性(肥料や農薬の残留状態や細菌の汚染状況など)に至るまで簡便に表すことが可能になる.
本ページでは,米の薄切片から成分分布図(2次元画像データ)を作成し,複数枚の成分分布図から3次元像を構築した結果を紹介する.
システムの構成
薄切部は薄切用のカッターを駆動するX軸( V-V滑り案内:ボールねじを介して,ACサーボモータで駆動),試料を一定に送るY軸(転がり案内:リニアに駆動するDCサーボモータで駆動),粘着テープを制御するラベリングシステムで構成される.
図1に薄切片作製状況を示す.試料に粘着テープを張り付けた後,試料を切削し次工程へ搬送する.
図1 薄切片作成状況
図2に赤外分光分析部を示す.薄切片作製装置で作製した切片をFT/IR(日本分光(株)製)で赤外分光分析を行い,2次元マッピングデータを作成する.
図2 赤外分光分析部
実験結果および考察
米(中央アジア産赤米)をパラフィンに包埋し,薄切片作製装置を用いて5&mumにスライスした.
薄切片が張り付けられたテープごとFT/IRに装填し分光分析を行った.
図3はFT/IRより出力された米のアミド基の分布データを等高線表示したものである.
図3 2次元断面データ(アミド基)
図4は複数枚の2次元画像データを元に作成した3次元イメージングである.今後はより多くの成分情報と波長の関係を明らかにして,農作物や食品の成分情報のイメージングを行っていく予定である.
図4 3次元イメージング
参考文献
[1] 小林,樋口,青木,工藤:三次元内部構造顕微鏡の開発,精密工学会誌,第61巻,第1号,100−106,1995.
[2] 工藤,福田,小久保,南都,樋口:生体組織観察用切片作製システムの開発,第56回農業機械学会年次大会講演要旨集,293−294,1997.
[3] 工藤,田渕,加藤,樋口,神,小久保:生体内部情報の可視化による3次元バイオイメージング手法の開発,農業機械学会第34回関東支部年次報告,33−34,1998.