図1 複合によるエネルギー変換の概念(右)と素子(左) |
図2 磁気デバイスの構成 |
素子は単体でも使えるが,我々はこれを図2のように永久磁石,ヨーク(磁性体)と合わせアクチュエータ,センサとしている.ここで磁歪材料は実用上,適度な透磁率を持っており,磁気回路中で効率よく磁界が加わることでその特性が有効に活用できる.動作原理を図3に示す.デバイスは,空隙を介し,外部可動ヨーク(磁性体)に磁気力(吸引力)を作用する.この時,デバイス中には,磁石の生じる磁束が磁歪材料(磁路I),ギャップ(磁路II)を通る2つの並列な磁気回路が構成される(図3左). ギャップを固定した状態で圧電材料に電圧を印加した場合,磁束の分布は図3中のように変化する.磁石の磁束は一定であることから,先に述べた電圧印加により磁歪材料の磁化(磁路Iの磁束)が減少することで磁路IIの磁束,磁気力が増加する.このように電圧により磁気力を制御することが可能である.一方,可動ヨークが移動しギャップが増加した場合,磁束は図3右のように磁路IIの磁束が減少し,磁路Iの磁束が増加する.この時,磁歪材料は圧電材料に引張力を加え,電圧を発生させる.つまりギャップの変化を電圧信号として検出することが出来る.
図3 アクチュエータ,センサの動作原理 |
図4 一定な磁気力を維持する場合の電磁石と複合素子の消費電力と電源 |
我々は,これまでいくつかの複合素子を試作し,その特性を検証している.基本的に,素子を超磁歪材料[9,10](Terfenol-D)とチタン酸ジリコン酸鉛(PZT)で構成し,Nd-B-Feの永久磁石と磁性ヨーク(軟鉄)からなる磁気回路と組み合わせている.図1の例ではTerfenol,PZTは幅8mm長さ6mm厚さ1mm(もしくは2mm)で,これらをエポキシ系接着剤で接合している.図5は,ギャップを0.1mmに固定した状態で1.5kVの電圧を印加した場合の,電圧と磁気力,歪の関係を測定したもので,電圧の印加によりTerfenolが圧縮され,同時に磁気力が増加していることがわかる.基本的に磁気力の大きさは磁歪材料,磁石の体積に比例し,その変化幅は,歪に比例する.複合の構成においては,いかに磁歪材料を効率よく歪ませるか,そのための接合方法,体積の比率,異方性の方向などが考慮すべき重要なポイントになる.
図5 電圧による磁気力と歪の変化 |
この素子は図6にある位置決め用のリニアアクチュエータ[11]や磁気浮上装置[12]への実用化が期待できる.試作は,基本的に電磁石の要素を素子に置き換えたものである.熱膨張等の影響を受ける精密な位置決めでは,保持時の発熱をいかに低減するのかが重要な課題であり,コイルのみの電磁力制御ではこれを解決できない.一方,我々は,双方の用途において,素子のみの磁気力制御により任意の位置で可動子を零消費電力で保持することに成功している.より力の変化幅を増加させるために,積層型圧電アクチュエータと磁歪材料を並列に並べ磁性ヨークに接合する,また図1の素子を複数個積層するなどの工夫をしている.
図6 磁気アクチュエータの応用例(リニアステップモータ:左,磁気浮上装置:右) |
図7 変位とセンサ電圧の応答(ギャップ0.1mm付近で可動子を微小変位させた) |
図8 感度の温度依存性 |