広温度範囲で使用できるマイクロ磁歪アクチュエータ
キーワード:Galfenol,アクチュエータ,磁歪素子,圧電素子,マイクロアクチュエータ,精密位置決め
我々は鉄ガリウム系磁歪材料(Galfenol)を用いたアクチュエータに関して研究を行っている.GalfenolはClarkらが開発した鉄ベースの磁歪材料で,最大歪が200ppm以上,延性で機械加工が可能である大きな特徴を持つ.キュリー温度は,Terfenol-Dに比べ高く,極低温でも室温と同等の磁歪を発生する.我々は,この材料の特徴を生かした高温・極低温用アクチュエータの開発を行っている.図1はその一例でGalfenolと非磁性ステンレスの板を貼り合わせたバイメタルと磁気回路からなる.Galfenolは単体では長手方向に一様に伸びるが,この上面にステンレスが接着されていることで,磁界の印加で,曲げ変形を生じる.バイメタルは,その両端でGalfenol面を下として永久磁石に吸着支持され,下部ヨーク(鉄)とで閉磁路が構成される.これより図1左下にようにコイルを励磁すると,Galfenolに磁界が加わり,下に凸にわん曲変位する.この場合,最大変位は25µm,一次の共振周波数は1.6kHzである.
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図1 バイメタルアクチュエータの構成(左)と温度による変位の比較(右) |
このアクチュエータの特徴は,材料自体の高いキュリー温度,極低温下の優れた磁歪特性から幅広い温度範囲で使用できることである.変位は図1右のように-196℃では室温と同等,200℃でも20%程度の減少である.また優れた機械的特性から曲げ,引張等の外力や衝撃に強い.以上のことにより,温度が広範囲で変化する環境下での振動アクチュエータに適している.またGalfenolとステンレスの熱膨張係数がほぼ同程度で,基本的に温度変化に伴う変形,熱応力が発生しない.これより疲労強度も高く,負荷下の精密位置決め等の用途にも適すると思われる.我々は,この材料のMEMSアクチュエータの可能性にも着目しており,図2のマイクロ振動子,スムーズインパクト位置決め機構等のアクチュエータも作製し,その実用性を検証している.
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図2 マイクロ振動子(左)とSIDM位置決め機構(右) |
発表文献
[1] 上野, E. Summers, 樋口,「Fe-Ga合金を用いたマイクロ磁歪振動子」,第18回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム, pp. 41-42 (2006/5)
[2] T. Ueno, E. Summers, and T. Higuchi, "MICRO MAGNETOSTRICTIVE VIBRATOR USING IRON-GALLIUM ALLOY", Conf. Proc. of the 10th international conference on new actuator (ACTUATOR2006) , pp. 410-413 (2006/6)
[3] M. Ghodsi, T. Ueno, T. Higuchi, and E. Summers, "Behavior of Galfenol Magnetostrictive Actuator in Cryogenic Enviroment", 第18回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム, pp. 445-449 (2006/5)
[4] 濱田,上野,E. Summers,樋口,「Fe-Ga合金を用いたスムーズインパクト駆動機構」,第15回MAGDAコンファレンスin桐生 電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス講演論文集 , pp. 493-496 (2006/11)