マイクロ超音波モータ
キーワード:マイクロモータ,アクチュエータ,MEMS,水熱合成法,PZT
はじめに
1980年代に報告された静電型マイクロモータを契機として,マイクロアクチュエータの研究が様々な方面から行われるようになった.本研究では,エネルギー密度が高く,構造がシンプルな超音波モータに注目し,その中でも高トルクが期待される円筒型振動子のモード回転型超音波モータの小型化の検討を行った.静電型マイクロモータの研究報告が数多い中で,超音波モータのマイクロ化が実現できれば,大きな発生力を必要とする部分,例えばマイクロマシン本体を移動させるための自走機構等への応用が考えられる.
モータ駆動原理
本研究では,円筒型ステータ振動子を用いたモード回転型超音波モータを研究の対象とした.本研究で用いるステータ振動子の構造を図1に示す.ステータは,円筒形状の圧電素子に,電極を内側に1個,外側に4個つけた構造となっている.圧電素子の分極方向は厚み方向で,外から内側に向かう方向とした.もちろん,内側から外側へ向かう方向でも構わない.
このステータの外側の4電極のうち,対向する2つの電極に180度位相のずれた交流をかけるとステータ振動子には図2のような1次のたわみ振動が励振される.さらに,残りの1対の電極を用いて,これと90度位相のずれたたわみ振動を励振すると,2つの振動モードが縮退し,図3のような首振り運動をする.ここで,ステータ端面に注目すると,1つの進行波が形成されていることがわかる.よって,この端面にロータを押しつけると,進行波によって形成される楕円運動によって回転力を得ることができる.
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図1 ステータ振動子の構造 |
図2 1次たわみ振動 |
図3 首振り運動 |
試作モータ
2種類の手法により,マイクロ超音波モータの試作を行った.一つは,バルクPZTを用いたものであり,もう一つは水熱合成法によるPZT薄膜を用いたものである.
バルクPZTを用いたものとしては,直径 2.4mm,高さ 10mmの円筒型ステータ振動子をバルクのPZTを切削加工することにより製作し,駆動を行った.モータ直径2.4mmというのは,薄膜を用いない超音波モータとしては非常に小さい部類に入る.このモータは,入力電圧 100Vp-p,駆動周波数 85kHzにおいて,最大トルク 220µNm,最大パワー 8mWを発生した.
| 図4 バルクPZTより製作した 直径2.4mmのモータ |
一方,水熱合成法を用いたものとしては,直径 2.4mm,高さ 10mmのステータ振動子からなるモータや,直径 1.4mm,高さ 5mmのステータ振動子からなるモータを試作した.直径 1.4mmのステータ振動子を用いたものでは,入力電圧 20Vp-p,駆動周波数 227kHz,予圧 5.3mNにおいて,0.67µNmのトルクを発生させることに成功した.このモータは,世界で最も小さな直径を持つ超音波モータであり,また,圧電薄膜を用いて製作したマイクロ超音波モータとしては,唯一のものである(いずれも,1999年3月の時点において).なお,図5,図6に示した写真は,それぞれ水熱合成法によるPZT薄膜を利用して製作した直径 2.4mmと直径 1.4mmのモータである.
関連項目
参考文献
[1] Takeshi MORITA, Minoru Kuribayashi KUROSAWA, and Toshiro HIGUCHI, "A Cylindrical Micro Ultrasonic Motor Using PZT Thin Film Desposited by Single Process Hydrothermal Method", IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol. 45, No. 5, pp. 1178-1187 (Sep-1998)
[2] Takeshi MORITA, Minoru KUROSAWA and Toshiro HIGUCHI, "A micro ultrasonic motor fabricated by hydrothermal method (1.4mm in diameter and 5mm in length stator transducer)", Proc. IEEE International Ultrasonic Symposium (Oct-1998)
[3] 森田剛,黒澤実,樋口俊郎,「水熱合成法PZT薄膜を用いたマイクロ超音波モータ」,'98ロボメカ講演集,1AVI1-3 (Jun-1998)
[4] 森田剛,黒澤実,樋口俊郎,「バルクPZTを用いた円筒型マイクロ超音波モータ」,第19回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム,p. 103 (Nov-1998)