静電力を利用した粉体搬送とその応用
キーワード:静電気力,粉体,微細粉体,粉体搬送,粉体供給,微小物体のハンドリング
1. はじめに
近年、粉体を扱う分野において原料粉体の微細化が進んでいる。
これに伴い、粉体の搬送方法や供給方法が問題になってきており、新たな原理による搬送・供給方法の開発が必要とされている。
そこで我々は、微小粉体において支配的な力となる静電気力に注目し、これを利用した粉体搬送について研究を行っている。
この方法は従来の搬送方法と比べ搬送可能な粉体の種類が多く、粒子に直接大きな外力が発生しないため粒子の粉砕・変形が起こりにくいため、幅広い分野での応用が期待できる。
ここでは静電気力を利用した粉体搬送について、粉体搬送デバイスによる搬送原理と様々なデバイス形状、またこれらの応用例について述べる。
2.粉体搬送デバイスと搬送原理
図1,2に粉体搬送デバイスの形状を示す。
デバイスは平面上に配置された複数の電極を絶縁性の樹脂で固め、その上に高分子系のカバーフィルムを張り付けている。
搬送される粒子はフィルム上を沿うようにして搬送される。
電極は6本ごとに結線され、独立に電源を供給できるようになっている。
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図1 粉体搬送デバイス(パネル型) |
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図2 デバイス断面図 |
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電極に図3のような電圧が印加されると、カバーフィルム上には不平等電界が発生し、粒子には矢印の方向のグレーディエント力が働く。
そこで、印加電圧を図4の様に変化させると、粒子は電圧が替わるごとに電極1ピッチ分搬送され、これを繰り返すことにより連続して粒子を搬送することができる。
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図3 粒子に働くグレーディエント力 |
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図4 電極への電圧印加パターン |
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静電気力による粉体搬送では、導体や絶縁体を問わず様々な種類の粉体が搬送可能であることを確認している。
また振動が発生せず、粒子に直接大きな外力が発生しないため粒子の変形や粉砕が起こりにくいという特徴がある。
3.粉体搬送デバイスの形状
静電粉体搬送デバイスは、形状を変えることにより様々な目的に利用できる。
ここでは、代表的な例としてパネル型、チューブ型とドット型[1]のデバイスについて述べる。
図5はチューブ型デバイスと呼んでいるもので、円筒形状のカバーフィルム上に電極を巻き付けた形状をしている。
粒子はチューブ内壁に沿って搬送され、鉛直上方への搬送も可能である。
粒子がチューブ内部で搬送されるため外部の影響を受けず搬送を行える。
図6はドット型デバイスと呼んでいるもので、導線の断面を電極としている。
このデバイスは微少量の搬送に適しており、粒子単位の搬送も可能である。
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図5 チューブ型デバイス |
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図6 ドット型デバイス |
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4.粉体搬送デバイスの応用例
これまで述べてきた粉体搬送デバイスの応用例を示す。
図7はチューブ型デバイスを複数接続し、粉体の長距離輸送に利用するものである。
チューブ型デバイスでは粉体がチューブ内部で搬送されるため、外部の影響を受けず、粉体を空間内で自由な位置へ輸送できる。
また双方向への搬送が可能である。
図8はドット型デバイスを利用した粒子の検査機構の構想図である。
粒子を1粒ずつ搬送することにより、搬送過程において粒子の形状,色や質量などの観察を行い選別までを同時に行うことが可能になると期待される。
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図7 チューブ型デバイスによる長距離搬送 |
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図8 ドット型デバイスによる粒子の検査機構 |
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図9は粉体搬送デバイスと電子天秤とを組み合わせた定量供給装置[2]である。
この方法は、従来の供給方法と比べ、微少量の搬送が可能で、振動が発生しない特徴がある。
このためデバイスを天秤と組み合わせ、計量を行い天秤上から供給を行うことができ、これを連続して行うことができる。
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図9 定量供給装置の構成 |
5.おわりに
静電気を利用した粉体搬送について、搬送デバイスと搬送原理、そして応用例について述べてきた。
静電気力を利用した粉体搬送は様々な種類の粉体が搬送でき、特に微少量の搬送が可能であるため幅広い分野での応用が期待できる。
現在は粉体搬送デバイスを利用した定量供給装置について、その実用化を目指している。
また、ここで紹介した原理は、粉体の搬送のみならず、様々な微小物体のハンドリングにも応用できる可能性があり、その点についても研究を行っている。
関連項目
参考文献
[1]F.M.Moesner,T.Higuchi,"Devices for Particle Handling by an AC Electric Field",Proc.IEEE Micro Electro Mechanical Systems,pp.66-71,1995
[2]平山,谷井,樋口," 静電気力による粉体定量搬送装置", 1997年度精密工学会春季大会,pp.533-534,1997