水熱合成法PZTを用いた振動形プローブセンサ

キーワード:プローブセンサ、PZT薄膜、水熱合成法


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研究の背景と目的

 近年の半導体やマイクロマシンなどの微細加工技術の発達に伴い精密形状計測の実現が求められている。 既存の測定技術では、AFMなどのように分解能が高いが測定ストロークが短いか、表面粗さ計のように接触圧力が高いなどの問題点があった。
 本研究の最終的な目標は、AFMなどのSPMに準ずるサブナノの分解能を持ち、0.1µN以下と表面粗さ計よりも低接触圧で、数mm角程度の分解能で形状測定を行え、工作機械で加工中の物体や液中の試料等の形状測定を行える形状測定システムを構築することである。

センサの原理と構造

 センサは縦振動2分の1波長共振させる振動子からなり、この節となる部分を支持する。 振動子は板状であり、圧電体であるPZTの薄膜を成膜する。 この表面に加振用、振動検出用の電極がある。 振動子のホーン先端を測定対称へ近づける。 このとき、共振状態の変化を測定することにより、接触、近接を検出する。 試作したセンサの大きさは振動子の長さが全体で9.8mmであり、チタン芯材のみとして計算した共振周波数は315kHzである。 またチタン芯材の厚さは100µm、ホーンによる振幅の拡大率は3.2である。 センサの形状を板状としたのは、表面積を出来るだけ大きくして圧電体のチタンに対する割合を大きくするためである。 振動子の支持については、縦振動モードがほとんど影響を受けないことを、有限要素法による解析から確認した。  Principle of the measurement using the touch probe sensor
 Structure of the touch probe sensor


センサの特徴

 このセンサでは縦振動の共振状態の変化を接触、近接の検出に用いる。 一般に、AFMなどのSPMではたわみ振動を用いる、カンチレバが用いられている。 これに対して縦振動子は粘性抵抗が影響が小さく、また共振周波数が高いなどの利点があり、カンチレバに比べて高分解能を実現できると考えられる。
 センサの分解能を上げるためには、小型化が必要である。これには、加振、振動検出に圧電体薄膜を用いることが有効である。 この圧電体薄膜として、本研究ではPZT薄膜を用いる。 このPZT薄膜の成膜法として水熱合成法[1]を用いる。 この方法は、分極の方向がそろった比較的厚い膜が得られるなど、振動子製作上で優れた利点を持つ。

センサの振動子としての評価

 Touch probe sensor with deferential amplifier circuit 振動子の振動振幅と検出電圧の関係を測定した。 印加電圧は3Vp-pである。 また、検出電圧の測定には、右図のように差動増幅路を用いた。 参照電極と検出電極の間の電位差を測定した。

 Relationship between the amplitude of the vibration and the pick-up voltage of the sensor 右グラフ中の検出電圧の値は増幅回路による影響を補正したものである。 振動振幅の検出電圧は、ともに304.35kHzで最大となっており、これはアドミタンス特性の測定結果とほぼ一致する。 また、このとき振動振幅126nm0-p、Q値は705、検出電圧は3.36mVrmsである。


センサによる近接・接触の検出

 Relationship between the pick-up voltage of the sensor and the displacement of the workpiece  センサの先端を測定対象物に近接させた時の検出電圧の変化を測定した。 対象物はアルミ板とし、これを積層の圧電素子によってセンサに接近させた。 加振電圧が3Vp-pとしたときの測定結果を示す。グラフの履歴はフォースカーブに似たかたちであり、ダンピングモードが生じていることがわかる。

Relationship between delta d and delta V  一般に、振動子を試料表面に近づけた時の検出電圧と振動子の位置の関係は右図のようになる。 これはフォースカーブとよばれるものであり、検出電圧と、振動振幅の関係を表すものと考えられる。 左側から、自由振動時、周期的接触、タピンングモード)時、完全接触時を表すものと考えられる。 このとき、周期的接触時のグラフ上での傾斜が急であるほど感度が高いといえる。 このことから、図中delta Vをdelta dで割った値を、振幅電圧変調感度と定義する。 近接時の検出電圧の測定を加振電圧を変えて行い、振幅電圧変調感度を求めた。平均を取ると1.8×10-2mV/nmである。 この感度と、差動増幅回路の入力換算ノイズ電圧から、このセンサの垂直方向の分解能は2.4nmと求められる。


まとめ

 試作したセンサでは3Vp-p印加時、共振周波数304.35kHzで振動振幅126nm0-p、Q値は705、検出電圧は3.36mVrmsを得た。 またこのセンサを用いて、近接・接触時の検出電圧の変化をしらべ、フォースカーブから周期的接触モードを確認した。 このとき感度は1.8×10-2mV/nmであった。この値から垂直方向分解能をもとめると2.4nmである。
今後は、PZT薄膜の改良、とくに連続的な成膜を実現すると共に、さらにセンサの小型化をはかる。また等価回路による動的特性の解析を行う。最終的には形状測定用のデバイスの実現を目標とする。

参考文献

[1] K. Shimomura et al., Jpn. J. Appl. Phys, Vol.30, No.9B, (1991) 2174.
[2] B. Jaffe et al.: "Piezoelectric Ceramics", Academic Press, London, (1971).
[3] T. Kanda et al., IEEE MEMS '98 Proceedings, (1998) 378-383.
[4] T. Morita et al., Jpn. J. Appl. Phys., No.36 5B, (1997) 2998-2999.
[5] T. Morita et al., IEEE Transactions on U.F.F.C., Vol.45, No.5, (1998) 1178.

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